― 「HANAITO #1」「HANAITO #2」について、深地宏昌氏による解説 ―
深地は数多くのデザインデータの作成と、それを刺繍に変換する表現実験を重ねるなかで、刺繍技法のひとつ「サテンステッチ」に着目しました。サテンステッチは刺繍ミシンによって並行に隙間なく縫われた糸が集積することで、立体感と光沢感をともない、見る角度によって表情を変える独特の質感を生み出します。

深地はこれを「刺繍ならではのドローイング」と捉え、その表情を最大限に引き出すための図案を生成する独自の刺繍デザインツールを開発。そのツールを使って、幾重もの直線と、微細な揺らぎのある線が重なることで花の絵が浮かび上がる図案をデザインしました。デジタルでコントロールされた秩序美をもったデザインは、タジマ工業の刺繍技術を通すことでさらに物質的な美しさが加えられています。

また、「HANAITO」は本物の花びらで染めた糸を使って刺繍しています。刺繍は、花とともに歴史を紡いできた表現です。古代から現代に至るまで、花は豊穣や再生、祈りや装いの象徴として、人が糸と針で布に留めようとしてきた最も普遍的なモチーフであり、刺繍という技術そのものが、花を描くことと共に発展してきたとも言えます。


本作では、その長い系譜を素材の側から捉え直しています。一輪の花は、花びらとなり、煮出されて染液となり、糸を染め、布の上でふたたび花の姿になる。素材が辿った道のりそのものが、作品の中に折り畳まれています。