―&T初号作品のコラボレーションアーティスト・大竹寛子氏よるステイトメント―
私の作品のテーマは“流動的な瞬間の中にある恒常性”です。モチーフとして扱う蝶や花に重ねるイメージもまた、常に流動的な現在の瞬間です。幼虫から蛹、蛹の中で一度液化して成虫としての蝶となる完全変態に象徴的な変化のイメージを重ね、蕾から花が咲き、やがて枯れ種ができ、新たな芽生えの根源になる自然の循環や摂理に、儚さと共に生命の強さや輝きを感じています。
動的平衡の様に変化し続けるからこそ現在の自己が保たれている関係や、アートマンとブラフマンの様に、流動的であることと相反する恒常的なこととが同時に存在するという関係の中にこそ真理があるのではないかと作品を通して模索しています。
この度、タジマさんとの刺繍アートのコラボレーションでは、“変化し続けること”と“変わらないもの”の相反する2つの事柄から、刺繍という伝統の中に脈々と受け継がれてきた変わらない温もりや存在感と、近代以降の機械による刺繍仕事という常に新しい技術革新の中に、たくさんの方々の手仕事や知恵が必要不可欠であり、そこに普遍的なある温かみを発見することが出来ました。
伝統や温もりと近代的な技術を融合させた制作を試み、皆さんのご協力があり作品化出来た事をとても嬉しく思っています。
Butterfly Camouflage
ヴィーガンレザーに刺繍をする事で、蝶や花に立体感が生まれ上品な質感に仕上がりました。絵具と違い、実際に触って刺繍の温もりを感じていただきたいです。
作品を各々が見る部分や注目する線や面によってそれ自体が蝶に見え、またバック(背景)だと思っていた部分も視点を変えるとそちらが蝶や花に見えるようにカモフラージュ柄を作っています。
物事を1つの方向からだけ見るのではなく、また二項対立的に見るのでもなく、多面的な思考が大切だと思う気持ちがポップな柄の中に込められています。
Circulation
気候変動や自然環境の問題がより身近な事柄として感じられるようCirculation(循環)をテーマにヴィーガンレザーとベルベットに刺繍を施しました。りんごの皮を原料としたヴィーガンレザーは優しいベージュピンク、竹の皮を原料としたヴィーガンレザーは鮮やかなグリーンのバックで蝶と花の刺繍が立体的に感じられます。ベルベットは上品なグレー系の色を選び、刺繍との相性もとてもよく、是非手に触れて作品の質感も楽しんでいただきたいと思います。
私たちは大きな循環の中の自然の一部であると感じています。酸素と二酸化炭素、植物や動物や微生物は、絶えず入れ替わりながらもバランスを保って、循環し続けています。現代社会に生きる私たちの周りでは様々な方法で時間の短縮を試み効率的なことに重きを置かれがちですが、視野を狭めることなく自然を見つめ直し、大気、水、土壌、生物等の間の持続可能な循環が構築され、自然界における循環と経済社会における循環の間で調和が保たれる様な行動やライフスタイルをゆっくりと作品を眺め、触れることにより一緒に考えていけたらと思います。